裁判例から学ぶ。押さえるべきポイントを紹介! 「施工業者の不始末!責任は誰が負うの?」

はじめに
施工業者の不始末により漏水事故が発生した場合に、建物の賃貸人(所有者)及び賃貸管理業者は、入居者(賃借人)に対して、責任を負うのでしょうか。
今回は、この点が問題になった裁判例を元に、複数の法律構成について検討します。
【事案】
リフォーム工事の施工業者がマンションの排水管を詰まらせたことにより漏水が発生したことから、当該漏水の被害者であるマンション居室の入居者(賃借人)が、当該施工業者、賃貸人(マンションの所有者)及び賃貸管理業者に対して、損害賠償を請求した事案【参考裁判例:東京地判平成24年12月17日(平成23年(ワ)15113号)】
ポイント①
施工業者の不始末により発生した漏水事故について、賃貸人は賃借人に対し賃貸借契約に基づく債務不履行責任を負うのか。
1 法律構成
賃借人が、マンション所有者である賃貸人に対して、漏水事故について責任を追及する場合の法的構成としては、賃貸借契約に基づく使用収益させる義務違反(民法601条)が考えられます。
2 施工業者の行為について
本裁判例では、施工業者は、賃貸人との間の請負契約に基づきリフォーム工事を行っていたのであり、当該請負契約は、賃貸人の賃借人に対する使用収益させる義務の履行を施工業者が補助する関係を理由づけるものではないとして、施工業者の不始末による漏水事故をもって、賃貸人による義務違反(債務不履行責任)の根拠とすることはできないとされました。
3 賃貸管理業者の行為について
本裁判例では、管理会社が漏水事故を認識して連絡することができたことを示す事実は窺えないとして、そもそも、賃貸管理業者は賃借人の主張する損害について責任を負わないと判断されました。そのため、賃貸管理業者の行為(賃借人に対する連絡の懈怠)が、賃貸人の賃借人に対する債務不履行の根拠となるとの主張は、それ自体失当であると判断されました。
ただし、本裁判例においては、賃貸管理業者が賃貸人の履行補助者に当たるか否かの判断が留保されています。したがって,本裁判例と異なり、損害発生に対して賃貸管理業者に責任が認められるような事案であれば、これをもって賃貸人に債務不履行責任が認められる可能性はあります。
ポイント②
施工業者の不始末により発生した漏水事故について、当該居室の所有者は、入居者に対して工作物責任(民法717条1項但書)を負うのか。
1 工作物責任
「土地の工作物」に当たる建物内設備の「設置又は保存に瑕疵」があることによって他人に損害を生じた場合において、当該設備の占有者に過失が認められないときは、当該設備の所有者は、被害者に対して無過失責任を負います(民法717条1項但書)。「瑕疵」とは、土地の工作物が通常備えているべき性状、設備、すなわち安全性を欠いていることを言います。
2 本裁判例における判断
本裁判例では、漏水事故の原因は施工業者の不始末であり、排水菅の管理に「瑕疵」があるとは認められないとして、建物所有者の工作物責任は否定されました。
ポイント③
施工業者の不始末により発生した漏水事故について、施工業者及び賃貸管理業者は責任を負うのか。
1 施工業者
本裁判例では、漏水事故の原因は施工業者がゴミを排水菅に詰まらせたことにあると認定した上で、施工業者は、入居者に対して、不法行為(民法709条)に基づく責任を負うと判断されました。
2 賃貸管理業者
本裁判例では、漏水事故を知った賃貸管理業者は当該事故の発生を入居者に連絡すべき義務があるのにこれを怠り、損害を増大させたとして、入居者から賃貸管理業者に対する不法行為責任が主張されました。しかし、裁判所は、賃貸管理業者が、当該漏水事故を認識し、これを入居者に連絡することができたことを窺わせる事実は存在しないとして、当該不法行為責任を否定しました。
おわりに
本裁判例では、施工業者の不手際により漏水事故が発生した場合において、建物の賃貸人(所有者)及び賃貸管理業者に対する損害賠償請求は認められませんでした。ただし、事案が異なれば、直接的に漏水事故を発生させた者でなくても、その損害について責任を負う可能性があるので注意が必要です。
九帆堂法律事務所
弁護士 原田 宜彦
首都大学東京(現 東京都立大学)法科大学院修了
著作:『実例と経験談から学ぶ資料・証拠の調査と収集-相続編-』(共著)他
講演:(公社)東京共同住宅協会主催 「第11回土地活用プランナー養成講座」(2020年8月)他
以上