防水工事、はじめの一歩 <オーナー様や管理会社様が知っておきたい基礎知識>

1.建物には欠かせない防水工事
「防水」とは、外界から水が入り込まないように加工することであり、「ウォータープルーフ」ともいいます。建物の劣化を防ぎ、快適性を向上させ、その資産価値を維持していくためにも、建物には防水加工を施すための防水工事を欠かすことができません。
<防止工事の主な目的>

①建物の強度を保つ
→漏水は、建物全体の耐久性を著しく低下させます。

②建物の外観(見た目)や内観(性能や快適性)を保つ
→雨水は建物内外のさまざまな部分に染みや変色を生じさせて見た目を損ねます。

③カビを防ぐ(アレルギー疾患を未然に防ぐ)
→漏水している箇所の周辺ではカビが発生し、ぜんそくなどのアレルギーを引き起こす可能性があります。

2.ほとんどの建物は雨水(漏水)によって劣化する
一般的に防水工事というと、木造住宅における「雨漏り補修」というイメージがあるかもしれませんが、防水工事はほとんどの建物にとって必要なものです。雨水によって、建物は次第に、確実に劣化していくのです。
<建材ごとの劣化内容>

●木材:腐食
●鉄:錆び
●コンクリート:中性化が進む
●鉄筋コンクリート:中の鉄骨が錆びる

※コンクリートのひび割れなどのトラブルを引き起こす

3.集合住宅にこそ、欠かせない防水工事
アパートやマンションといった集合住宅は、その外観や居住性からできるだけ多くの人から選ばれなくてはいけません。また、一度漏水などが発生してしまうと、複数の世帯が生活しているために補修工事が円滑に進まないことも多く、手間やコストの負担も増えてしまいます。だからこそ、オーナー様や管理会社様は防水にできるだけ気を配っておく必要があるのです。もちろん、カビなどのアレルギー対策をして入居者様の健康維持に寄与するために、という側面もあるでしょう。
4.防水工事、5つの種類
防水工事の種類は大きく分けて5つあり、工事する箇所や目的に合わせて適切な防水工事を選択します。

①ウレタン防水工事
ベランダや屋上の床に液体状のウレタン樹脂を床面に厚めに塗り拡げて乾燥させ防水膜をつくる工法です。ビルやマンションといった大規模な建物の屋上から一般住宅における平面状の屋根まで施工できます。

②アスファルトシート防水
合成繊維不織布のシートに液状に溶かしたアスファルトを染み込ませコーティングする工法です。広い場所への施工が適しているため、学校やマンション・公営住宅などの屋上や屋根で採用されることが多くなっています。

③FRP防水
FRPとは、繊維強化プラスチック(Fiber Reinforced Plastics)の略称であり、木やコンクリートで作られた床の上にFRPのシートを敷き、その上に樹脂を塗って硬化させる工法です。

④塩ビシート防水
塩化ビニル樹脂が素材のシートを使う工法です。塩ビシートは、元から着色されているので、通常の施工で必要とされている仕上げ材の塗装が必要ありません。

<参考>アパート・マンションの長期的な修繕項目と修繕周期
ご紹介してきた通り、建物を長持ちさせるポイントは防水にあります。木造でも鉄骨造でもRCでも、先手を打った施策により、建物の寿命を格段に伸ばすことができます。防水を甘く考えて「雨漏りをしてから直す」ということでは、建物の劣化が早くなってしまいます。特に、集合住宅の管理に携わっている方々は、以下紹介する「長期的な修繕項目と修繕周期」をぜひ参考にしてみてください。

防水工事の種類と流れ① <ウレタン防水工事>

1. 手抜き工事をされないためにも、知っておきましょう
高額な防水工事。しかし、いわゆる「手抜き工事」も決して少なくありません。というのも、多くのオーナー様は防水工事に対する知識がないために、手抜きをされても気づくことがないためです。手抜き工事を未然に防ぐためにはしっかりとした事業者を選ぶことが最大のポイントになりますが、そのためにも、オーナー様自身が防水工事の基本的な知識を持っておくことが有効です。なぜならば、業者選びの際にいろいろな質問ができたり、工事中にもちょっとした確認ができるからです。
<手抜き工事例>

①塗る回数のごまかし
②乾燥時間の短縮
③防水シートの繫ぎ目の接着がしっかりとしていない

今回は、ウレタン防水工事について、解説します。
2. ウレタン防水工事の種類と流れ
ベランダや屋上の床に液体状のウレタン樹脂を床面に厚めに塗り拡げて乾燥させ防水膜をつくる工法の一種です。様々な下地に施工可能な上、安価なウレタン防水工事には以下の3種類の工法があります。ただし、最も手抜き工事がされてしまう可能性が高いと考えられます。

①密着工法
→床面に直接ウレタン樹脂を塗るシンプルな工法。

②メッシュ工法
→床面にメッシュシートを貼り付けてウレタン樹脂を塗る工法。密着工法よりもヒビ割れしにくい。

③通気緩衝工法
→床面に直接ウレタン樹脂を塗らず、床面に敷いた通気緩衝シートの上から塗り固める。

(1)密着工法の流れ

①高圧洗浄…高圧の水で表面の汚れを取り除きます。
  ▼
②清掃…表面に残ったゴミや不要な防水層などを掃除します。
  ▼
③ひび割れなどの補修…ひび割れクラックを補修すると共に凹凸を平にします。
  ▼
④ドレンの設置…雨水を流すためのドレン(排水溝)を設置します。
  ▼
⑤プライマーの塗布…下地と防水材を密着させるためにプライマー(接着剤)を塗ります。
  ▼
⑥パラペットのウレタン防水…パラペット(屋上やバルコニー等の外周部に設置された低い手すりのような部位)の防水施工を行います。
  ▼
⑦ウレタン塗膜の下塗り…1層目のウレタン塗膜を塗布します。
  ▼
⑧ウレタン塗膜の中塗り…2層目のウレタン塗膜を塗布します。
  ▼
⑨トップコート塗布…ウレタン塗膜の劣化を防ぐための保護塗料を塗布します。
  ▼
⑩密着工法完了…作業は全体を通して3日~5日で完了します。

(2)メッシュ工法

密着工法の①から⑤の流れの後にメッシュシートを貼り、⑧「ウレタン塗布の中塗り」に移行します。

(3)通気緩衝工法の流れ

①高圧洗浄…高圧の水で表面の汚れを取り除きます。
  ▼
②清掃…表面に残ったゴミや不要な防水層などを掃除します。
  ▼
③ひび割れなどの補修…ひび割れクラックを補修すると共に凹凸を平にします。
  ▼
④プライマーの塗布…下地と防水材を密着させるためにプライマー(接着剤)を塗ります。
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⑤通気緩衝シートの貼り付け…下地に含んだ雨水や水分を逃がすためのシートを貼り付けます。  
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⑥ジョイントテープの貼り付け…シートのジョイント部分にテープを貼ります。
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⑦ドレンの設置…雨水を流すためのドレン(排水溝)を設置します。
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⑧脱気筒の設置…下地に含んだ水分を脱気筒から外に排出します。
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⑨パラペットのウレタン防水…パラペットの防水施工を行います。
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⑩ウレタン塗膜の下塗り…1層目のウレタン塗膜を塗布します。
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⑪ウレタン塗膜の中塗り…2層目のウレタン塗膜を塗布します。
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⑫トップコート塗布…ウレタン塗膜の劣化を防ぐための保護塗料を塗布します。
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⑬密着工法完了…作業は全体を通して5日~7日で完了します。

裁判例から学ぶ。押さえるべきポイントを紹介! 「施工業者の不始末!責任は誰が負うの?」

はじめに
施工業者の不始末により漏水事故が発生した場合に、建物の賃貸人(所有者)及び賃貸管理業者は、入居者(賃借人)に対して、責任を負うのでしょうか。
今回は、この点が問題になった裁判例を元に、複数の法律構成について検討します。
【事案】
リフォーム工事の施工業者がマンションの排水管を詰まらせたことにより漏水が発生したことから、当該漏水の被害者であるマンション居室の入居者(賃借人)が、当該施工業者、賃貸人(マンションの所有者)及び賃貸管理業者に対して、損害賠償を請求した事案【参考裁判例:東京地判平成24年12月17日(平成23年(ワ)15113号)】
ポイント①
施工業者の不始末により発生した漏水事故について、賃貸人は賃借人に対し賃貸借契約に基づく債務不履行責任を負うのか。
1 法律構成
賃借人が、マンション所有者である賃貸人に対して、漏水事故について責任を追及する場合の法的構成としては、賃貸借契約に基づく使用収益させる義務違反(民法601条)が考えられます。
2 施工業者の行為について
本裁判例では、施工業者は、賃貸人との間の請負契約に基づきリフォーム工事を行っていたのであり、当該請負契約は、賃貸人の賃借人に対する使用収益させる義務の履行を施工業者が補助する関係を理由づけるものではないとして、施工業者の不始末による漏水事故をもって、賃貸人による義務違反(債務不履行責任)の根拠とすることはできないとされました。
3 賃貸管理業者の行為について
本裁判例では、管理会社が漏水事故を認識して連絡することができたことを示す事実は窺えないとして、そもそも、賃貸管理業者は賃借人の主張する損害について責任を負わないと判断されました。そのため、賃貸管理業者の行為(賃借人に対する連絡の懈怠)が、賃貸人の賃借人に対する債務不履行の根拠となるとの主張は、それ自体失当であると判断されました。
ただし、本裁判例においては、賃貸管理業者が賃貸人の履行補助者に当たるか否かの判断が留保されています。したがって,本裁判例と異なり、損害発生に対して賃貸管理業者に責任が認められるような事案であれば、これをもって賃貸人に債務不履行責任が認められる可能性はあります。
ポイント②
施工業者の不始末により発生した漏水事故について、当該居室の所有者は、入居者に対して工作物責任(民法717条1項但書)を負うのか。
1 工作物責任
「土地の工作物」に当たる建物内設備の「設置又は保存に瑕疵」があることによって他人に損害を生じた場合において、当該設備の占有者に過失が認められないときは、当該設備の所有者は、被害者に対して無過失責任を負います(民法717条1項但書)。「瑕疵」とは、土地の工作物が通常備えているべき性状、設備、すなわち安全性を欠いていることを言います。
2 本裁判例における判断
本裁判例では、漏水事故の原因は施工業者の不始末であり、排水菅の管理に「瑕疵」があるとは認められないとして、建物所有者の工作物責任は否定されました。
ポイント③
施工業者の不始末により発生した漏水事故について、施工業者及び賃貸管理業者は責任を負うのか。
1 施工業者
本裁判例では、漏水事故の原因は施工業者がゴミを排水菅に詰まらせたことにあると認定した上で、施工業者は、入居者に対して、不法行為(民法709条)に基づく責任を負うと判断されました。
2 賃貸管理業者
本裁判例では、漏水事故を知った賃貸管理業者は当該事故の発生を入居者に連絡すべき義務があるのにこれを怠り、損害を増大させたとして、入居者から賃貸管理業者に対する不法行為責任が主張されました。しかし、裁判所は、賃貸管理業者が、当該漏水事故を認識し、これを入居者に連絡することができたことを窺わせる事実は存在しないとして、当該不法行為責任を否定しました。
おわりに
本裁判例では、施工業者の不手際により漏水事故が発生した場合において、建物の賃貸人(所有者)及び賃貸管理業者に対する損害賠償請求は認められませんでした。ただし、事案が異なれば、直接的に漏水事故を発生させた者でなくても、その損害について責任を負う可能性があるので注意が必要です。
九帆堂法律事務所
弁護士 原田 宜彦
首都大学東京(現 東京都立大学)法科大学院修了
著作:『実例と経験談から学ぶ資料・証拠の調査と収集-相続編-』(共著)他
講演:(公社)東京共同住宅協会主催 「第11回土地活用プランナー養成講座」(2020年8月)他
以上