アパートオーナーのための雨漏り点検チェックリスト

アパートオーナーのための雨漏り点検チェックリスト

 アパートのオーナーとして、建物の維持管理は非常に重要です。特に雨漏りは早期に対処しなければ、建物や入居者に被害をもたらす可能性があります。以下は、雨漏りを点検する際に役立つチェックリストです。
1. 屋根、屋上の点検
□ 屋根の瓦(又は防水シート)に剥がれ、割れ、などはないか
□ 勾配不良などによる水溜りの痕などはないか
□ 屋根、屋上の排水は正常に機能しているか
2. 外壁の点検
□ タイル貼り外壁の場合、タイルの割れや白華現象はないか
□ サイディング貼りの場合、接合部のシーリングが劣化していないか
□ 塗装仕上げの場合、塗膜の剥がれや劣化がないか
3. 開口部周り(窓、ドア)の点検
□ 窓やドア周りのシーリングに切れ目や劣化がないか
□ 窓やドアのフレームに亀裂や劣化はないか
□ 内側に雨水が吹き込んだ痕などはないか
4. バルコニーとテラスの点検
□ バルコニー、テラスの床面に亀裂や浸水の跡はないか
□ 手すりや柵の足元に破断や劣化はないか
□ バルコニー、テラスの排水は正常に機能しているか
5. 雨樋と排水ルートの点検
□ 雨樋が詰まっていないか
□ 雨樋や排水管に破損や漏れはないか
□ 排水管の曲がり部分や排水桝に詰まりはないか
6. 室内の点検
□ 天井や壁に水漏れの痕跡はないか
□ 天井や壁にカビの発生はないか
□ 水回り(キッチンやバスルーム)の配管に亀裂や漏れはないか
 これらの項目を定期的にチェックし、雨漏りの早期発見と修復を行うことは、建物の長寿命化や入居者の安全を確保するために欠かせません。点検結果や修繕履歴を適切に管理し、必要な修繕作業を迅速に対応することも重要です。また、点検だけでなく、建物の定期的なメンテナンスや補修も忘れずに行いましょう。適切な管理と維持により、アパートの価値を守り、入居者の満足度を向上させることができます。

漏水が集合住宅にもたらす影響:入居者満足度低下とテナント離れのリスク

漏水が集合住宅にもたらす影響:入居者満足度低下とテナント離れのリスク

1.集合住宅における漏水の影響
 漏水の発生は、集合住宅において重要な問題となり、以下のような影響をもたらす可能性があります。
①入居者の生活環境悪化と満足度低下
 漏水が頻繁に発生した場合、入居者は快適な生活環境を享受できなくなり、不満を抱く可能性があります。室内への漏水により床材の濡れ、壁や天井のシミ、家具・衣類の汚れなどにより入居者の退去やテナント離れのリスクが高まることがあります。
②修繕コストの発生
 漏水の発生により、建物の損傷や劣化が進行し、修繕コストが発生します。雨漏りによって木材が腐食したり、壁や天井に水ダメージが生じたりする場合、大規模な修復作業が必要になることもあります。早期に対処ができない場合は損傷、劣化が進行することによりコストも増大することになります。
③建物の信頼性の低下
 漏水が継続的に発生すると、当然建物の信頼性が低下します。入居者はもちろんのこと将来建物を売却する際にも、漏水の修繕履歴や発生原因について懸念を抱かれることもあり、ひいては、建物の評判や市場価値が損なわれる可能性もあります。
2.漏水対策のポイント
 以下は、漏水問題の影響を最小限に抑えるための対策です。
①定期的な点検とメンテナンス
 漏水を予防するためには、定期的な点検とメンテナンスが必要です。屋根、外壁、雨樋などの外部構造を点検し、損傷や劣化箇所を早期に発見し修復することが重要です。
②防水層の保護
 建物の屋根や外壁には防水層が存在します。この防水層を定期的に点検し、劣化や破損がないか確認することが重要です。必要に応じて修復や補修を行い、建物を雨水から保護します。
③適切な排水設備の維持
 漏水を防ぐためには、排水設備が適切に機能していることが必要です。ドレンや雨樋の詰まり、排水ポンプや排水桝を定期的にチェックし、適切に機能している状態を確保しましょう。
④材料の選択と適切な施工の実施
 建物の設計時においてはコスト検証をしつつ優れた耐久性を持つ材料を選択することが重要です。更に施工時には熟練の技術者により仕様に沿った適切な防水処理を行うことが将来の建物維持にきわめて重要です。
⑤迅速な対応
 雨漏りが発生した場合は、迅速に対応し修繕を行いましょう。早期に問題を解決することで、被害を最小限に抑えることができます。
 漏水による利用者の満足度低下やテナント離れのリスクは、建物の経済的な健全性や運営の持続性にも大きな影響を与えます。漏水問題には真剣に取り組むようにしましょう。

賃貸住宅の雨漏り対策のポイント

賃貸住宅の雨漏り対策のポイント

 賃貸住宅における雨漏りは、入居者にとっては致命的な住みづらさとなり、退去に直結する場合もあります。雨漏りには自然現象や建物の老築化など様々な要因がありますが、施工不良ということも有るので、一概に築年数の古い物件だけがなるとは言えず、新築物件にも往々にして起こりうる事象です。貸主には民法606条にて下記の通り修繕義務が生じるため、修理の際の見積から施工確認の手間、また緊急対応を理由とした高額な請求を受けてしまう事例も報告されています。こうした事態を避けるためにも、ここでは雨漏り対策のポイントについて説明します。
民法606条
(賃貸人による修繕等)
1. 賃貸人は、賃貸物の使用及び収益に必要な修繕をする義務を負う。ただし、賃借人の責めに帰すべき事由によってその修繕が必要となったときは、この限りでない。
対策①:施工品質の確保
 建物の新築や改修時には施工品質の確保が必要で、そのためには信頼できる施工会社を選定することが大切であり、事前に施工会社の評判や実績を調べることや、保有資格や加入団体の有無も確認することをお勧めします。ご近隣への対応を着工前から丁寧に行い無用なトラブルを未然に防げる体制であるかも確認しましょう。また施工中は工事進捗状況や品質、安全管理、現場の清掃状況など定期的に報告を受けること、またできればご自身で現場に出向いて確認することをお勧めします。
対策②:定期的な点検
 工事完了後は定期的に屋根や屋上、外壁、排水管などを点検し、劣化や破損がないかを確認することが大切です。早期に発見することにより雨漏りも未然に防ぐことができ、かつ修理費用も抑えることができます。屋根や屋上は、傷、ひび割れ、材料の朽廃などがないか確認します。また、積もった落ち葉や枝などの除去も行います。ドレンや雨樋などについては、詰まりや破損、正常と異なる傾きがないか確認します。
対策③:定期的なメンテナンス
 点検により劣化や損傷が発見された際はできるだけ早くメンテナンスを行ってください。
 雨水が室内に侵入するパターンは、実は屋根裏では以前から雨漏りが進行していたケースも多く、雨漏りが起きていないからとメンテナンスを後送りにすることで劣化や損傷が見えない部分で広がり後の工事が大がかりになるケースも見られます。常に先手先手での対応をお勧めします。
対策④:緊急対応体制の整備
 万が一雨漏りが発生した場合には、迅速かつ適切な対応が必要です。緊急時に対応をしてくれる施工会社を見つけ日頃から良好な関係を築いておきましょう。ネットで見つけた施工会社に依頼し緊急対応だったからと後から高額な請求を受けたケースは多数あります。「安かろう」ではなく迅速で適切な対処のできるパートナーがいることが万一の場合にオーナーご自身や入居者の方々にも大きな負担を強いることなく対処できることになります。
 以上が、賃貸住宅の雨漏り対策のポイントです。
 これから梅雨の時期が到来するにあたって、少しでも先手を打って雨漏り対策を行ってみてはいかがでしょうか。実際当協会へのお問い合わせも昨年は6月が最多となっており、皆様突発的な雨漏りにお困りで緊急のお問合せを頂くことが多くありました。
 雨漏りは見えないところで進行していることがほとんどなので見落とされがちですが、いざ発生してしまうと損害賠償にも発展する大きな問題になりかねません。
 定期的な点検清掃や必要に応じた先手の対処を行うことにより入居者が安心して暮らせる環境を提供し、ひいては健全な賃貸経営となることに繋がります。

民法大改正の今後の影響を裁判例から読み解く~雨漏りによる賃料返還請求について~

民法大改正の今後の影響を裁判例から読み解く~雨漏りによる賃料返還請求について~

はじめに
 賃貸借契約において民法は極めて重要です。民法は、120年ぶりに大改正がされ、原則として、施行日である2020年4月1日後に結ばれた賃貸借契約には、改正後の民法が適用されることになりました。今後は改正後民法に基づいて判断される場面が増えることになります。
 そこで今回は、改正前民法の裁判例を題材としつつ、改正民法による影響にも触れたいと思います。
【事案】
 美容院を経営する借主が、入居物件の貸主に対し、賃借当初から雨漏りが発生し、経営に多大な影響を受けたなどとし、改正前民法611条の類推適用に基づいた賃料減額請求として過払賃料の返還の請求等をした事案。【参考裁判例:平成25年(ワ)第16109号】
ポイント①
すでに支払った賃料について、賃料の減額を主張して返還請求することができるか。
1 請求の内容
 借主は賃貸借契約に基づき、貸主に賃料を支払わなければなりません。
 これに対し本件の裁判例の借主は、改正前民法611条の類推適用に基づき、賃料の減額を請求しました。そして、同条による賃料減額請求は、賃借物の一部が滅失したときから減額されるべきであるから、支払った賃料について、雨漏りが生じた時点から、払いすぎた部分を返還するべきと主張しました。
2 裁判所の判断
 裁判所は、提出された証拠から、本件物件には、本件賃貸借契約を結んだ当時から雨漏りがあったと認められる、と判断しました。一方で、改正前民法611条は借主が賃料減額の意思を貸主に伝えることなく支払った賃料についてまで遡って貸主の賃料を受領する権限がなかったとはしない、と判断しました。
 具体的には、雨漏りがあったと認定される本件賃貸借契約締結当時からではなく、借主が貸主に対して雨漏りを理由に賃料を減額すべきである旨を述べたと認定できる時から、本件物件に雨漏りがあったとすれば減額されたであろう賃料額について賃料の減額を請求することができると判断しました。
3 改正による影響
 民法改正で関連条項が変更されています。
 改正前民法611条1項は、賃借物の一部が、借主の過失によらないで滅失したときは、借主はその滅失した部分の割合に応じて、賃料の「減額を請求することができる」旨定めていました。
 改正後民法611条1項は、賃借物の一部が、賃借人の責めに帰することができない事由で、滅失に限らず、使用及び収益をすることができなくなった場合には、賃料はその使用及び収益をすることができなくなった部分の割合に応じて、「減額される」旨定めています。
 こうした改正により、すでに支払った賃料の減額による返還請求についてどのような影響があるのかは、本コラム執筆時点でははっきりせず、裁判例の蓄積が待たれるところです。
 本裁判例において裁判所は、改正前民法の「減額を請求することができる」という文言を考慮要素の一つにしています。この点を重視すると、改正後民法の「減額される」という文言からは、借主による請求がなくても、借主の責めに帰することができない事由により一部の滅失、使用及び収益をすることができなくなったと認められる場合には、当然に賃料が減額されることとなると考えられるため、減額された賃料の返還を認める方向に傾きます。
 一方で、裁判所は、借主が賃借物の一部滅失の事実を認識した後も何も言わずに長期間約束の賃料を支払い続けたのに、後になって611条に基づき賃料の減額を請求して返還を求めることを認めると、貸主がいつ賃料の返還を求められるかわからない不安定な状態に置かれてしまうことも考慮要素として挙げました。何も言わずに減額前の賃料が払われていたのに、突然611条に基づき払いすぎた賃料を返還するよう請求できるとすると貸主はいつ賃料の返還を求められるかわからない、という点は、改正によっても変わらないと考えられるため、返還を認めない方向に傾きます。
 事情ごとに必要な予防策も異なることから個別の判断が必要ですが、一つの例として、貸主としては、契約の際、建物に修繕が必要となった場合には速やかに通知をすることを具体的な義務として定め、この義務に違反したときは賃料の減額を請求できない、といった特約を定めることで、紛争を予防することが考えられます。
ポイント②
改正前・後、どちらの民法が適用されるかはどのように判断されるか。
 賃貸借契約については、原則として、改正後民法の施行日である2020年4月1日より前に締結された契約については改正前民法が適用され、同日後に締結された契約については改正後民法が適用されます。
 では、施行日前に賃貸借契約が締結され、その更新が施行日後に行われた場合はどうなるでしょうか。
 契約の更新というのは新たな契約の締結とは異なり、従前の契約が引き続いてされるものというイメージをお持ちの方が多いかと存じます。そのような考え方からは、更新がされたからといって、適用される条文が当然に変わる、とはいえないとも考えられます。
 しかし、改正民法の起案担当者としては、このような場合には、施行日後に当事者の合意によって契約の更新を行うと、改正後民法が適用されることとなると考えていたようです。具体的には、上記の場合に、契約期間満了により改めて契約の合意をした場合や、自動更新条項により更新がされるような場合は改正後民法が、借地借家法によって更新がされる法定更新の場合は、改正前民法が適用されることになると考えられています。
このように、更新の取り扱いについては理論上疑義もありますが、賃貸経営上のリスクを回避する見地からは、起案担当者の考え方に従って実務運用をしている方が多いと思います。
終わりに
 同じような事案であっても、個々の事情が違うため対応は異なります。
 そのため、事案に応じた対応を考えていくことが必要不可欠です。そして、裁判例というのは、どのような事案が紛争となったのか、を知るうえでも参考になるものです。
 賃貸物件の滅失等による賃料の減額について、紛争となりうることを裁判例から知り、適切な予防策をとることも重要ではないかと考えます。
九帆堂法律事務所
弁護士 宮野 真帆
立教大学法科大学院修了
以上