裁判例から学ぶ。押さえるべきポイントを紹介! 「雨漏りが原因! 明渡請求はどうなる」

はじめに
今回紹介する裁判例は、賃貸人が賃料滞納を理由に賃貸借契約を解除し、建物の明渡しを求めたところ、賃借人が、建物に雨漏りが発生したとして、賃料減額や修繕義務違反に基づく損害賠償請求権との相殺等を主張し、賃貸借契約の解除は認められないと反論したという事案です。
以下では、本裁判例において、賃借人から主張された法律構成について確認した上で、賃貸借契約の債務不履行解除の可否に関して当事者から主張された事情及びこれに対する裁判所の判断を紹介します。
【事案及び判示事項】
賃貸人である原告が、賃借人である被告会社に対し、賃料滞納の債務不履行を理由に賃貸借契約を無催告解除し、目的不動産の明渡しと賃料相当損害金の支払を請求するとともに、被告会社及び連帯保証人である被告代表者に対し、未払賃料等の請求をしたところ、被告会社から雨漏りによる賃料減額、修繕義務違反に基づく損害賠償請求権等との相殺などが主張された事案において、裁判所は、原告の修繕義務違反による物品損害の一部のみを認め、相殺後の未払賃料請求を認容したが、賃料未払に至る経緯などから被告会社の背信性を否定し、明渡請求等を棄却した【参照裁判例:東京地判平成28年8月9日(平成27年(ワ)第3734号)】。
ポイント①
賃料不払を正当化するために被告会社から主張された法律構成について
1 はじめに
本裁判例では、原告は、賃料滞納を理由に賃貸借契約を解除し、被告会社に対して建物等の明渡しを求めました。これに対し、被告会社は、雨漏りを理由に賃料不払いを正当化しましたが、その法律構成はどういったものだったのでしょうか。以下では、本裁判例において、被告会社から主張された法律構成の一部を紹介します。
2 賃料減額請求(改正前民法611条1項類推適用)を前提とする法律構成
被告会社は、雨漏りにより建物の一部が使用不能になったことから、賃料の一部が不発生であり、また、既払賃料について不当利得返還請求権が発生しており、同請求権と賃料債権とを相殺すると主張しました。
 なお、本裁判例は改正前民法の事例ですが、改正後の民法では、滅失以外の理由により賃借物が使用及び収益できなくなった場合においても賃料減額が認められることが明文化されるとともに、一部滅失等の場合には、請求を待たずに当然に賃料が減額されることが規定されました(民法611条1項)。
3 修繕義務違反による損害賠償請求等との相殺
被告会社は、雨漏りに関して、原告が賃貸借契約に基づく修繕義務を怠り、これにより損害が生じたとして、損害賠償請求権と賃料債権とを相殺する と主張しました。
4 本裁判例における判断
本裁判例では、被告会社による上記主張のうち、上記2の賃料減額請求については、雨漏りによって本件貸室の使用が不能になったとはいえないとして認められませんでした。また、修繕義務違反による損害賠償請求については、物品損害の一部のみが認められました。
 被告会社は、賃料減額請求や損害賠償請求権との相殺等により賃料債権が存在しないなどと主張していましたが、上記のとおり、結局、物品損害の一部のみしか認められませんでした。そのため、賃料支払債務の遅滞は認められるとして、下記(ポイント②)のとおり、債務不履行解除(無催告解除)の可否について判断されることになりました。
ポイント②
債務不履行解除(無催告解除)の可否に関して当事者から主張された事情
1 無催告解除
建物賃貸借契約を解除するには、原則として、相当期間を定めて履行の催告をしなければなりません(民法541条)。ただし、無催告解除の特約がある場合において、「契約を解除するに当たり催告をしなくてもあながち不合理とは認められないような事情」(最判昭和43年11月21日最高裁判所民事判例集22巻12号2741頁)、すなわち賃借人の背信性があるときは、催告なしで契約を解除することができます。
2 無催告解除の可否に関する当事者の主張
本裁判例では、賃貸借契約上に無催告解除特約が定められていたところ、原告は、5か月分の賃料等(合計145万2158円)が滞納されていることなどを理由に、無催告解除が認められるべきであると主張しました。
 これに対し、被告会社は、雨漏りを原因とする賃料減額及び修繕義務違反に基づく損害賠償請求権等との相殺によって、賃料不払は存在しないか極めて少額に留まる上、賃料不払に至る経緯には、原告が雨漏りに対する対応を怠ったことなどがあったとして、本件では信頼関係が破壊されておらず無催告解除は認められないと反論しました。
3 本裁判例における判断
裁判所は、雨漏りに対する原告の対応やこれに関する原告の説明が十分に果たされていなかったことからして、被告会社が賃料の支払を拒否すると考えることにも一定の理由あったとしました。また、被告会社が賃料債権と損害賠償請求権等との相殺を主張している中で、原告が催告することなく被告らの預金を仮差押えして、解除通知を行っていることは、性急に過ぎるとしました。その上で、被告代表者が本件貸室において妻や子供4人と同居しており、今後とも賃料を支払い本件貸室で居住することを強く希望していることなどからすれば、被告会社において背信性があったといえず、無催告解除は認められないと判断しました。
おわりに
以上のとおり、賃料滞納により建物明渡請求において、賃借人から、雨漏りを原因とする賃料減額や賃料債権と損害賠償請求権等との相殺によって、そもそも賃料滞納は存在しないと反論されることがあります。こうした場合、解除の可否を判断するにあたって、賃料減額や損害賠償請求などについても判断しなければならないため、法律関係が複雑になります。
 本裁判例は、あくまで事例判断ではありますが、賃貸借契約の債務不履行解除の可否を判断するに当たって雨漏りに関する事情がどのように評価されたのかが分かるため、参考になると思います。また、雨漏りによる賃料減額や損害賠償請求は、賃貸経営や賃貸管理に携わる皆様にとっては関心の高い分野であると思います。これらについては、今回のコラムでは、紙幅の関係で詳しく解説できておりませんので、次回以降にメインテーマとして取り上げる予定です。
九帆堂法律事務所
弁護士 原田 宜彦
首都大学東京(現 東京都立大学)法科大学院修了
著作:『実例と経験談から学ぶ資料・証拠の調査と収集-相続編-』(共著)他
講演:(公社)東京共同住宅協会主催 「第11回土地活用プランナー養成講座」(2020年8月)他
以上

裁判例から学ぶ。押さえるべきポイントを紹介! 「賃貸店舗の漏水事故」

はじめに
建物の漏水事故は、その原因が外観からは分かりにくいこともあり、突然発生し、一度発生すると賃借人等に対する被害が重大になることも珍しくありません。賃貸物件の所有者や賃貸管理業者の方々は、日頃から漏水事故については注意をされているかと思います。
今回は、コラムの第1回目ですので、漏水事故が発生した場合に賃借人等からどのような法律構成により請求がなされるのかについて、実際の裁判例を元に検討しようと思います。
【事案】
賃貸店舗の漏水事故について、賃借人が、賃貸人に対し、損害賠償請求と、賃料減額請求権行使を前提とする不当利得返還請求の両方を行った事案【参照裁判例:東京地判令和3年1月7日(平成30年(ワ)17628号)】
ポイント①
賃貸店舗の漏水事故により被害が生じた場合、賃借人は賃貸人に対して、どういった法律構成により、損害賠償を請求することができるか。
1 法律構成
漏水事故が発生して賃借人に被害が生じた場合に、賃借人が賃貸人(建物所有者)に対して損害賠償を請求する法律構成としては、賃貸借契約(民法601条)の債務不履行に基づく損害賠償請求(民法415条)や、建物所有者の工作物責任に基づく損害賠償請求(民法717条1項但書)などが考えられます。
2 賃貸借契約に基づく債務不履行責任
本裁判例の事案は、1階の店舗のエアコン室外機置き場から水漏れが発生し、原告らが賃借する地下1階の店舗に被害が生じたというものでした。原告らは、原告らの賃借部分に被害が生じたにもかかわらず、賃貸人である被告が修繕を行わないとして、賃貸借契約に基づく修繕義務違反を主張しました。
本裁判例では、上記修繕義務違反に基づく損害賠償請求の一部が認められました。
3 建物所有者の工作物責任
「土地の工作物」に当たる建物内設備の「設置又は保存に瑕疵」があることによって他人に損害が生じた場合において、当該設備の占有者に過失が認められないときは、当該設備の所有者は、被害者に対して無過失責任を負います(民法717条1項但書)。「瑕疵」とは、土地の工作物が通常備えているべき性状、設備、すなわち安全性を欠いていることを言います。
本裁判例では、漏水事故の原因について、①エアコン室外機置き場の架台(防水パン)に錆びが生じて穴が開いた結果、通常の排水ルート以外である同穴から水が漏れ出し、コンクリートスラブを通じて当該貸室のキッチン天井部分に漏水を生じさせたものであると認定するとともに、②外壁の問題も影響していたものと推認できるとして、これらは「瑕疵」に当たると判断されました。
そして、裁判所は、漏水を発生させた1階の賃借人が当該設備の占有者に当たるとしても、同賃借人は漏水事故について必要な注意をしていたとして、所有者である賃貸人に対して、工作物責任に基づく損害賠償請求を認めました。
ポイント②
賃貸店舗で漏水事故が発生した場合において、賃借人は賃貸人に対して賃料の減額を主張することができるか。
1 法律構成
賃貸店舗で漏水事故が発生して、賃借部分の一部を使用することができなくなった場合において、当該漏水事故が賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、使用することができなくなった部分の割合に応じて賃料は減額されます(民法611条1項)。
2 本裁判例における判断
本裁判例では、賃借人から賃貸人に対して、使用収益の一部不能による賃料減額請求権(改正前民法611条1項類推適用)の行使を前提に、既払賃料について不当利得返還請求がなされました。
これに対し、裁判所は、漏水事故によって、賃借人は、その賃借部分の一部を使用することができなくなったと認定した上で、給排水設備工事等は、改正前民法606条により修繕義務に含まれるとして、使用収益の一部不能による賃料減額を認め、既払の一部賃料について不当利得返還請求を認めました。
おわりに
本裁判例からも分かるとおり、賃借人が賃貸人(所有者)に対して漏水事故によって生じた損失の回復を請求する場合は、複数の法律構成が考えられます。ただし、適切な法律構成は事案により異なりますので、漏水事故により被害を受けた場合は、ご自身で即断するのではなく、弁護士や建築物の専門家などに相談しながら、事案に沿った適切な法律構成を選択することが重要です。
九帆堂法律事務所
弁護士 原田 宜彦
首都大学東京(現 東京都立大学)法科大学院修了
著作:『実例と経験談から学ぶ資料・証拠の調査と収集-相続編-』(共著)他
講演:(公社)東京共同住宅協会主催 「第11回土地活用プランナー養成講座」(2020年8月)他
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防水工事、はじめの一歩 <オーナー様や管理会社様が知っておきたい基礎知識>

1.建物には欠かせない防水工事
「防水」とは、外界から水が入り込まないように加工することであり、「ウォータープルーフ」ともいいます。建物の劣化を防ぎ、快適性を向上させ、その資産価値を維持していくためにも、建物には防水加工を施すための防水工事を欠かすことができません。
<防止工事の主な目的>

①建物の強度を保つ
→漏水は、建物全体の耐久性を著しく低下させます。

②建物の外観(見た目)や内観(性能や快適性)を保つ
→雨水は建物内外のさまざまな部分に染みや変色を生じさせて見た目を損ねます。

③カビを防ぐ(アレルギー疾患を未然に防ぐ)
→漏水している箇所の周辺ではカビが発生し、ぜんそくなどのアレルギーを引き起こす可能性があります。

2.ほとんどの建物は雨水(漏水)によって劣化する
一般的に防水工事というと、木造住宅における「雨漏り補修」というイメージがあるかもしれませんが、防水工事はほとんどの建物にとって必要なものです。雨水によって、建物は次第に、確実に劣化していくのです。
<建材ごとの劣化内容>

●木材:腐食
●鉄:錆び
●コンクリート:中性化が進む
●鉄筋コンクリート:中の鉄骨が錆びる

※コンクリートのひび割れなどのトラブルを引き起こす

3.集合住宅にこそ、欠かせない防水工事
アパートやマンションといった集合住宅は、その外観や居住性からできるだけ多くの人から選ばれなくてはいけません。また、一度漏水などが発生してしまうと、複数の世帯が生活しているために補修工事が円滑に進まないことも多く、手間やコストの負担も増えてしまいます。だからこそ、オーナー様や管理会社様は防水にできるだけ気を配っておく必要があるのです。もちろん、カビなどのアレルギー対策をして入居者様の健康維持に寄与するために、という側面もあるでしょう。
4.防水工事、5つの種類
防水工事の種類は大きく分けて5つあり、工事する箇所や目的に合わせて適切な防水工事を選択します。

①ウレタン防水工事
ベランダや屋上の床に液体状のウレタン樹脂を床面に厚めに塗り拡げて乾燥させ防水膜をつくる工法です。ビルやマンションといった大規模な建物の屋上から一般住宅における平面状の屋根まで施工できます。

②アスファルトシート防水
合成繊維不織布のシートに液状に溶かしたアスファルトを染み込ませコーティングする工法です。広い場所への施工が適しているため、学校やマンション・公営住宅などの屋上や屋根で採用されることが多くなっています。

③FRP防水
FRPとは、繊維強化プラスチック(Fiber Reinforced Plastics)の略称であり、木やコンクリートで作られた床の上にFRPのシートを敷き、その上に樹脂を塗って硬化させる工法です。

④塩ビシート防水
塩化ビニル樹脂が素材のシートを使う工法です。塩ビシートは、元から着色されているので、通常の施工で必要とされている仕上げ材の塗装が必要ありません。

<参考>アパート・マンションの長期的な修繕項目と修繕周期
ご紹介してきた通り、建物を長持ちさせるポイントは防水にあります。木造でも鉄骨造でもRCでも、先手を打った施策により、建物の寿命を格段に伸ばすことができます。防水を甘く考えて「雨漏りをしてから直す」ということでは、建物の劣化が早くなってしまいます。特に、集合住宅の管理に携わっている方々は、以下紹介する「長期的な修繕項目と修繕周期」をぜひ参考にしてみてください。

防水工事の種類と流れ① <ウレタン防水工事>

1. 手抜き工事をされないためにも、知っておきましょう
高額な防水工事。しかし、いわゆる「手抜き工事」も決して少なくありません。というのも、多くのオーナー様は防水工事に対する知識がないために、手抜きをされても気づくことがないためです。手抜き工事を未然に防ぐためにはしっかりとした事業者を選ぶことが最大のポイントになりますが、そのためにも、オーナー様自身が防水工事の基本的な知識を持っておくことが有効です。なぜならば、業者選びの際にいろいろな質問ができたり、工事中にもちょっとした確認ができるからです。
<手抜き工事例>

①塗る回数のごまかし
②乾燥時間の短縮
③防水シートの繫ぎ目の接着がしっかりとしていない

今回は、ウレタン防水工事について、解説します。
2. ウレタン防水工事の種類と流れ
ベランダや屋上の床に液体状のウレタン樹脂を床面に厚めに塗り拡げて乾燥させ防水膜をつくる工法の一種です。様々な下地に施工可能な上、安価なウレタン防水工事には以下の3種類の工法があります。ただし、最も手抜き工事がされてしまう可能性が高いと考えられます。

①密着工法
→床面に直接ウレタン樹脂を塗るシンプルな工法。

②メッシュ工法
→床面にメッシュシートを貼り付けてウレタン樹脂を塗る工法。密着工法よりもヒビ割れしにくい。

③通気緩衝工法
→床面に直接ウレタン樹脂を塗らず、床面に敷いた通気緩衝シートの上から塗り固める。

(1)密着工法の流れ

①高圧洗浄…高圧の水で表面の汚れを取り除きます。
  ▼
②清掃…表面に残ったゴミや不要な防水層などを掃除します。
  ▼
③ひび割れなどの補修…ひび割れクラックを補修すると共に凹凸を平にします。
  ▼
④ドレンの設置…雨水を流すためのドレン(排水溝)を設置します。
  ▼
⑤プライマーの塗布…下地と防水材を密着させるためにプライマー(接着剤)を塗ります。
  ▼
⑥パラペットのウレタン防水…パラペット(屋上やバルコニー等の外周部に設置された低い手すりのような部位)の防水施工を行います。
  ▼
⑦ウレタン塗膜の下塗り…1層目のウレタン塗膜を塗布します。
  ▼
⑧ウレタン塗膜の中塗り…2層目のウレタン塗膜を塗布します。
  ▼
⑨トップコート塗布…ウレタン塗膜の劣化を防ぐための保護塗料を塗布します。
  ▼
⑩密着工法完了…作業は全体を通して3日~5日で完了します。

(2)メッシュ工法

密着工法の①から⑤の流れの後にメッシュシートを貼り、⑧「ウレタン塗布の中塗り」に移行します。

(3)通気緩衝工法の流れ

①高圧洗浄…高圧の水で表面の汚れを取り除きます。
  ▼
②清掃…表面に残ったゴミや不要な防水層などを掃除します。
  ▼
③ひび割れなどの補修…ひび割れクラックを補修すると共に凹凸を平にします。
  ▼
④プライマーの塗布…下地と防水材を密着させるためにプライマー(接着剤)を塗ります。
  ▼
⑤通気緩衝シートの貼り付け…下地に含んだ雨水や水分を逃がすためのシートを貼り付けます。  
  ▼
⑥ジョイントテープの貼り付け…シートのジョイント部分にテープを貼ります。
  ▼
⑦ドレンの設置…雨水を流すためのドレン(排水溝)を設置します。
  ▼
⑧脱気筒の設置…下地に含んだ水分を脱気筒から外に排出します。
  ▼
⑨パラペットのウレタン防水…パラペットの防水施工を行います。
  ▼
⑩ウレタン塗膜の下塗り…1層目のウレタン塗膜を塗布します。
  ▼
⑪ウレタン塗膜の中塗り…2層目のウレタン塗膜を塗布します。
  ▼
⑫トップコート塗布…ウレタン塗膜の劣化を防ぐための保護塗料を塗布します。
  ▼
⑬密着工法完了…作業は全体を通して5日~7日で完了します。

防水工事の種類と流れ② <シート防水工事>

1. 防水工事種別による手抜き工事危険度
前回のコラム(防水工事の種類と流れ①)では防水工事における手抜き工事のリスクについて触れましたが、今回は工事種別による手抜き工事危険度を紹介します。マンションやビルオーナー様は、このリスクを知っておくと共に工事の流れを把握し、手抜き工事をしない、優良な事業者選びに役立てていただければと思います。
<防水工事種類別手抜き工事危険度>
防水工事の種類 工事の特徴 手抜き危険度 手抜き工事の
チェックポイント
ウレタン防水 安価で施工する
場所を選ばない
2層目の中塗り工程が行われているか
FRP防水 強靭かつ
施工期間が短い
やや高 2層目の中塗り工程が行われているか
シート防水 費用対効果が高い 普通 シートの繫ぎ目の接着はどうか
アスファルト防水 高い防水性能 バーナーの炙り不足はないか
また、今回はシート防水工事について解説します。
2. シート防水工事の種類と流れ
塩化ビニルシートやゴムシートを下地に貼り付ける工法です。優れた耐久性があり、メンテナンスの頻度はウレタン防水より少なくなります。なお、シート防水には、密着工法、機械固定工法の2つの工法があります。

①密着工法
→接着剤などで塩ビシートを貼り付ける工法。

②機械式固定法
→ディスク板を使って塩ビシートを下地に固定する工法。

(1)密着工法の流れ

①高圧洗浄…高圧の水で表面の汚れを取り除きます。
  ▼
②清掃…表面に残ったゴミや不要な防水層などを掃除します。
  ▼
③ひび割れなどの補修…ひび割れクラックを補修すると共に凹凸を平にします。
  ▼
④ドレンの設置…雨水を流すためのドレン(排水溝)を設置します。
  ▼
⑤プライマーの塗布…下地と防水材を密着させるためにプライマー(接着剤)を塗ります。
  ▼
⑥パラペットのウレタン防水…パラペット(屋上やバルコニー等の外周部に設置された低い手すりのような部位)の防水施工を行います。
  ▼
⑦ウレタン塗膜の下塗り…1層目のウレタン塗膜を塗布します。
  ▼
⑧ウレタン塗膜の中塗り…2層目のウレタン塗膜を塗布します。
  ▼
⑨トップコート塗布…ウレタン塗膜の劣化を防ぐための保護塗料を塗布します。
  ▼
⑩密着工法完了…作業は全体を通して3日~5日で完了します。

(2)機械式固定法の流れ

①下地処理&強度確認…凹凸を平にして下地の強度を確認します。
  ▼
②絶縁シートを敷く…しわのないようにシートを敷き詰めます。
  ▼
③固定金具の取り付け…固定金具を取り付けます。
  ▼
④ドレンの設置…雨水を流すためのドレン(排水溝)を設置します。
  ▼
⑤シートの貼り付け…固定金具に熱溶着または溶剤溶着します。
  ▼
⑥シートの接合…接合部を熱溶着または溶剤溶着します。
  ▼
⑦接合末端部のシール…シール材を用いてすべての接合部分をシールします。
  ▼
⑧脱気筒の設置…下地に含んだ水分を脱気筒から外に排出します。
  ▼
⑨パラペットにシート貼り付け…パラペットのシート貼り付けを行います。
  ▼
⑩密着工法完了…作業は全体を通して5日~7日で完了します。

裁判例から学ぶ。押さえるべきポイントを紹介! 「施工業者の不始末!責任は誰が負うの?」

はじめに
施工業者の不始末により漏水事故が発生した場合に、建物の賃貸人(所有者)及び賃貸管理業者は、入居者(賃借人)に対して、責任を負うのでしょうか。
今回は、この点が問題になった裁判例を元に、複数の法律構成について検討します。
【事案】
リフォーム工事の施工業者がマンションの排水管を詰まらせたことにより漏水が発生したことから、当該漏水の被害者であるマンション居室の入居者(賃借人)が、当該施工業者、賃貸人(マンションの所有者)及び賃貸管理業者に対して、損害賠償を請求した事案【参考裁判例:東京地判平成24年12月17日(平成23年(ワ)15113号)】
ポイント①
施工業者の不始末により発生した漏水事故について、賃貸人は賃借人に対し賃貸借契約に基づく債務不履行責任を負うのか。
1 法律構成
賃借人が、マンション所有者である賃貸人に対して、漏水事故について責任を追及する場合の法的構成としては、賃貸借契約に基づく使用収益させる義務違反(民法601条)が考えられます。
2 施工業者の行為について
本裁判例では、施工業者は、賃貸人との間の請負契約に基づきリフォーム工事を行っていたのであり、当該請負契約は、賃貸人の賃借人に対する使用収益させる義務の履行を施工業者が補助する関係を理由づけるものではないとして、施工業者の不始末による漏水事故をもって、賃貸人による義務違反(債務不履行責任)の根拠とすることはできないとされました。
3 賃貸管理業者の行為について
本裁判例では、管理会社が漏水事故を認識して連絡することができたことを示す事実は窺えないとして、そもそも、賃貸管理業者は賃借人の主張する損害について責任を負わないと判断されました。そのため、賃貸管理業者の行為(賃借人に対する連絡の懈怠)が、賃貸人の賃借人に対する債務不履行の根拠となるとの主張は、それ自体失当であると判断されました。
ただし、本裁判例においては、賃貸管理業者が賃貸人の履行補助者に当たるか否かの判断が留保されています。したがって,本裁判例と異なり、損害発生に対して賃貸管理業者に責任が認められるような事案であれば、これをもって賃貸人に債務不履行責任が認められる可能性はあります。
ポイント②
施工業者の不始末により発生した漏水事故について、当該居室の所有者は、入居者に対して工作物責任(民法717条1項但書)を負うのか。
1 工作物責任
「土地の工作物」に当たる建物内設備の「設置又は保存に瑕疵」があることによって他人に損害を生じた場合において、当該設備の占有者に過失が認められないときは、当該設備の所有者は、被害者に対して無過失責任を負います(民法717条1項但書)。「瑕疵」とは、土地の工作物が通常備えているべき性状、設備、すなわち安全性を欠いていることを言います。
2 本裁判例における判断
本裁判例では、漏水事故の原因は施工業者の不始末であり、排水菅の管理に「瑕疵」があるとは認められないとして、建物所有者の工作物責任は否定されました。
ポイント③
施工業者の不始末により発生した漏水事故について、施工業者及び賃貸管理業者は責任を負うのか。
1 施工業者
本裁判例では、漏水事故の原因は施工業者がゴミを排水菅に詰まらせたことにあると認定した上で、施工業者は、入居者に対して、不法行為(民法709条)に基づく責任を負うと判断されました。
2 賃貸管理業者
本裁判例では、漏水事故を知った賃貸管理業者は当該事故の発生を入居者に連絡すべき義務があるのにこれを怠り、損害を増大させたとして、入居者から賃貸管理業者に対する不法行為責任が主張されました。しかし、裁判所は、賃貸管理業者が、当該漏水事故を認識し、これを入居者に連絡することができたことを窺わせる事実は存在しないとして、当該不法行為責任を否定しました。
おわりに
本裁判例では、施工業者の不手際により漏水事故が発生した場合において、建物の賃貸人(所有者)及び賃貸管理業者に対する損害賠償請求は認められませんでした。ただし、事案が異なれば、直接的に漏水事故を発生させた者でなくても、その損害について責任を負う可能性があるので注意が必要です。
九帆堂法律事務所
弁護士 原田 宜彦
首都大学東京(現 東京都立大学)法科大学院修了
著作:『実例と経験談から学ぶ資料・証拠の調査と収集-相続編-』(共著)他
講演:(公社)東京共同住宅協会主催 「第11回土地活用プランナー養成講座」(2020年8月)他
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大規模修繕工事実施までの流れ・進め方

  1. 建物診断
  2. 見積書の取得会社の選定
  3. 見積書の取得
  4. 施工会社の選定
  5. 工事範囲の検討
  6. 施工会社との契約
  7. 入居者への案内
  8. 工事着工
  9. 工事完了

大規模修繕工事の実施まで少なくとも2~3ヶ月はかかります。

トラブルが発生してからの緊急検討では遅いです。

一般的な大規模修繕工事基本と修繕周期

  • コンクリート躯体
  • 外壁塗装面やタイル面の「ひび割れ」を放置すると、そこから雨水が入り錆汁や欠損につながります。その他躯体には、様々な劣化がありますので、適切に補修する必要があります。
  • タイル補修クリーニング工事
    10〜12年
  • 屋上防水
  • 屋上や屋根の防水材の劣化は雨漏りの原因になります。屋上からの雨漏りは階下の住戸に被害が生じます。漏水する前に対策することが重要です。
  • 屋上防水工事
    10〜12年
  • 鉄部塗装

  • ●屋外鉄骨階段 
    ●鉄製手すり
    ●メーターボックス等
    塗装の劣化により錆が発生し、これが進行すると腐食して鋼材の強度が低下します。鉄部塗装は定期的に塗り替えが必要です。
  • 鉄部塗装工事
    5~6年
  • 外装仕上げ
  • 外壁塗装は紫外線や風雨にさらされることにより劣化します。また、外壁タイルも経年により剥離やひび割れが発生し、剥がれ落ち危険もあります。定期的に、塗装の塗り替え・タイルの補修が必要です。
  • 外壁塗装工事
    10〜12年
  • シーリング工事
    10〜12年
  • 給排水設備
  • ●給排水管
    ●給水ポンプ
    ●受水槽
    管は永久的なものではありません。
    管の材質により腐食や劣化の進行や対応年数も様々です。給排水管の腐食が進むと住戸内や下階住戸への漏水原因となります。
  • 給水ポンプ取替工事
    13年
  • 受水槽取替工事
    20〜25年
  • 建具・金物
  • ●窓サッシ
    ●玄関扉 
    ●集合ポスト等
    毎日使用するので、傷みやすい部分です。
    また、建物全体のイメージに大きく影響します。
  • 集合ポスト取替工事
    20~25年
  • 窓サッシ取替工事
    30~35年
  • 玄関扉取替工事
    25~30年
  • 外構・付属設備
  • ●集会所
    ●駐輪場
    ●外構等
    舗装の沈下や水たまりは日常生活に支障が生じます。また、マンション内の高齢化に向けたバリアフリー化なども必要です。
  • 機械式駐車場取替工事
    20~25年
  • 内舗装やり替工事
    20~25年
  • 機械式駐輪機取替工事
    13年
  • 電気設備

  • 外壁塗装面やタイル面の「ひび割れ」を放置すると、そこから雨水が入り錆汁や欠損につながります。その他躯体には、様々な劣化がありますので、適切に補修する必要があります。
  • エレベーター取替工事
    30年
  • Vアンテナ取替工事
    15年
  • 照明器具取替工事
    15~20年
  • バルコニー・屋外廊下防水
  • バルコニーの床から漏水すると洗濯物が濡れるなど、階下住戸の生活に支障が生じます。適切な防水をする必要があります。
  • ルーフバルコニー防水工事
    10~12年
  • 屋外廊下防水工事
    10~12年
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防水工事でよくあるトラブル紹介

建物を健全な状態に保つために必要な防水工事ですが、予期しないトラブルに巻き込まれてしまうこともあります。
ここでは、防水工事によくあるトラブル事例をご紹介します。
1.工事中の匂いや騒音等のトラブル
防水工事の施工方法や材料等によりますが、「塗装の匂いが思ったよりきつい」、「工事における機械工具からの騒音で眠れない」等、近隣住人からのクレームが発生することがあります。
塗装につきまとう有機溶剤のシンナーは、吸引すると健康被害を引き起こすこともありますので注意しなくてはなりません。
匂いや騒音の発生は、工事上、致し方ない点もあります。しかし、クレームを少しでも和らげるためには、事前に施主と工事業者が近隣住人に挨拶回りと匂いと騒音についての内容を説明しておくことが重要となります。
くれぐれも迷惑をおかけすることについてのお詫びの姿勢を忘れないようにすることが大切です。

2.手抜き工事等のトラブル
ウレタン防水の手抜き工事
ウレタン防水においては、通常は塗膜防水層の厚みを2ミリ以上にするため2~3回程度重ね塗りをしなくてはなりません。しかし、重ね塗りの手間を惜しんだ手抜き工事では、防水層の厚みが足りない為に劣化が早く進行し、塗料が割れて雨漏りすることがあります。

シート防水の手抜き工事①
シート防水においては、シート接合の際にシーリング材を挿入する必要があります。この工程を省いた手抜き工事では、シート接合部や端末部に隙間ができ、雨漏りすることがあります。

シート防水の手抜き工事②
テレビニュースで、高層マンション屋上の防水シートが台風で大きく剥がれて地上に落下した映像をご覧になったことはないでしょうか。このケースでは、防水シートを張る際における清掃等の下地処理を省いた手抜き工事が疑われます。
きちんと下地処理をしないで接着剤を塗布した場合、下地と防水シートが密着せず、シートの伸縮により変形し破れてしまいます。その結果、そこから風が吹き込み、防水シートが剥がれてしまうのです。

3.トラブルを未然に防ぐために
折角、時間と費用をかけて防水工事を施したのに、それが原因で新たな雨漏りやトラブルが発生してしまっては本末転倒です。
下記に、トラブルを未然に防ぐためのチェックポイントを記載しますので、ご参考いただければと思います。

チェックポイント
1)雨漏りの原因を的確につかむこと
2)雨漏り原因を見つけ出し、そのための解決工事を遂行できる防水工事会社を選ぶこと
3)手抜きやミスをやらない誠実な防水工事会社を選ぶこと
4)見積書で工事内容(プロセスと仕上がり点検等)が適切かどうかチェックしておくこと
5)工事完了後、仕上がりが適切かどうか自ら確認すること
6)問題点があれば、修正工事をしっかりお願いすること